大津波に襲われ、甚大な被害をもたらした東京電力福島第一原発の事故を教訓に作られた「新規制基準」が施行されてから、7月で6年を迎えます。新基準は、原発にどんな津波対策を求めているのか。あらためて振り返ります。
福島第一を襲った津波は、東電の想定をはるかに超え、敷地内の浸水高は高いところで15・5メートルに達しました。海側にあった原子炉の冷却用ポンプは壊れ、標高10メートルの位置に立つタービン建屋の地下に置かれた発電機や配電盤も水没しました。
原子炉を冷やせない状況が続いた結果、原子炉建屋は爆発。大量の放射性物質が外部に出ました。1986年のチェルノブイリ原発事故と並び、国際的な事故評価尺度(INES)で最悪のレベル7という深刻な事故となりました。
事故後に指摘されたのは、津波想定の甘さと、想定を超える津波への対策の不十分さでした。
事故をふまえた現在の新基準は、最大想定の津波でも防潮堤などで敷地に入れないことが基本。ただ、想定を超える津波で海水が敷地に入っても、重要な設備がある建物に水を入れない対策も求めています。たとえば、建物の入り口に水密扉などを設置します。津波の引き波で海面が下がると、原子炉を冷やすために海水をくみ上げるポンプが故障する恐れがあるため、その対策も要求されます。
津波の高さの想定には、地震のほか、海底の地滑り、火山の噴火などが原因で起こるケースをそれぞれ計算します。地震と地滑りなど、複数の原因が重なるケースも考えます。複数の条件を変え、最も大きい津波を調べます。
たとえば、陸のプレートがはね上がる「プレート間地震」による津波の場合、震源の位置やプレートの動く距離と速さなどを変えて、津波の高さを比べます。
津波などへの安全対策が新基準に適合していると原子力規制委員会に認められなければ、原発を運転することができません。このため電力会社では、想定される最大津波や対策の内容を申請し、審査を受けます。
過去の審査では、対策の不十分さを指摘された例もあります。日本原子力発電(原電)東海第二原発(茨城県)は、審査の途中で防潮堤の設計を変えたところ、規制委が液状化の恐れを指摘。このため原電は、地盤を固める改良工事と、防潮堤の下に打ち込む杭を長くして岩盤まで届かせる対策を追加し、昨年9月に新基準への適合が認められました。標高最大20メートルの防潮堤などの工事は、2021年3月に完了する予定です。
再稼働した関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の審査では、想定する津波の試算が不十分だと規制委に指摘されました。想定津波は申請時の2・6メートルから6・2メートルに引き上げられ、関電は6メートルの予定だった防潮堤を8メートルにかさ上げしました。
現在審査中の中部電力浜岡原発(静岡県)は、今後の行方が注目されます。中部電は、国の有識者会議による南海トラフ巨大地震の想定などをもとに、最大の津波を21・1メートルと想定。標高22メートルの防波壁が完成しています。
しかし、規制委の指摘で震源の位置を変えた試算をすると、最大の津波は防波壁を上回る22・5メートルになるとの結果が出ました。先月の審査会合で、中部電はこの結果を「参考値」とし、想定は21・1メートルのままでよいと説明。一方、規制委は震源を変えた試算は必要だとして、中部電の主張を退けました。まだ審査は続きますが、中部電は防波壁のかさ上げを迫られるかもしれません。
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福島第一の事故後、「想定外」という言葉を何度も耳にしました。いまの制度では、新基準への適合が一度認められた原発でも最新の知見が出てくれば、対策に反映することが義務づけられています。現在の対策に漏れはないのか。事故を繰り返さないためには、謙虚な姿勢を持ち続けるべきだと思います。
【朝日新聞】