政府は二十三日、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に基づき、今世紀後半のできるだけ早期に温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにする「脱炭素社会」を目指すとした長期戦略案をまとめた。脱炭素化のためには小型原発の開発も念頭に「あらゆる選択肢を追求する」とした。
長期戦略案は経済産業省と環境省がこの日開いた合同会合で公表。経産省主導で昨年七月に改定したエネルギー基本計画の内容を踏襲し、「原子力関連技術のイノベーションの促進」をうたっている。
具体的には、原発の再稼働推進を掲げたほか、小型原発の一種である小型モジュール炉や、廃炉が決まった高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県)の後継となる高速炉などの活用を挙げている。
一方で、再生可能エネルギーの主力電源化や二酸化炭素(CO2)の回収技術の実用化なども盛り込んだ。
ただ、CO2排出が多い石炭火力発電については、欧州の主要国が二〇二〇~三〇年代に全廃する方針を打ち出しているのに対し、日本は、できるだけ依存度を下げるとの内容にとどめた。
長期戦略案は、意見公募を経て、六月に大阪市で開く二十カ国・地域(G20)首脳会合までに正式決定し、国連に提出される。
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戦略案では、原発を二酸化炭素(CO2)削減のための重要な手段として位置付けており、国際的な箔(はく)付けを得ることで国内的に反発が根強い原発政策を推進したい狙いがうかがえる。
「世界に類のないものだ」。環境省との合同会合で経済産業省の幹部は長期戦略案について自画自賛した。日本が議長国を務める六月のG20の前に、長期戦略を世界に発信することにこだわってきた両省。どうにか間に合わせたことで安堵(あんど)した様子だった。
だが中身を見ると、胸を張るような内容とは言い難い。長期戦略案で開発を目指すとしている小型モジュール炉は、米国やアルゼンチンなどで開発が行われているが、商用化の見通しは立っておらず、どこまで建設や安全対策のコストが膨らむかも見通せない。合同会合の中でも委員から「イノベーション(技術革新)任せだ」と厳しい意見が出ていた。
また、CO2を大量に排出する石炭火力発電についても「ゼロ」を掲げる先進国の大勢に反し、「依存度を可能な限り引き下げる」との表現にとどまっている。CO2削減の対策として挙げているCO2を地下にためる技術「CCS」も二〇三〇年までに商用化するとしているが、コストが高く、立地する地域の理解が得にくい課題があり実用化された例はなく、前例のない技術革新が不可欠と強調しており、不確実さが際立つ。
合同会合の委員の一人で環境NPO代表の藤村コノヱ氏は取材に、「技術革新を口実に実現性に乏しい政策を進める前に、すでに実用化されている再生エネにもっと注力すべきだ」と注文を付けた。【東京新聞】