廃炉作業が進められている福島第1原発の(手前から)1~4号機=福島県大熊町で2019年2月14日午前10時20分、本社ヘリから
未曽有の事故を起こした東京電力福島第1原発で政府と東電は今年度、1~3号機の内部調査を本格化し、廃炉へ最難関の溶融燃料(燃料デブリ)の本格取り出しを最初に実施する号機を決める。だが最も有力な2号機でさえも、内部の状況は見込みと違うことが判明、作業の困難さが改めて浮き彫りになった。多くの企業が関わる中、蓄積ノウハウの継承も課題だ。今後30年以上続く廃炉作業はまだ「序盤」にすぎない。
「デブリの分布」正確な突き止め、見通し立たず
「いまの時点で、すべての(燃料デブリ)取り出しを明言するのは難しい」
3月28日にあった東電の定例記者会見。廃炉プロジェクトのトップの小野明最高責任者は「全量取り出しという旗は降ろさない」としつつ、言葉を選びながら作業の行方に確証が持てない現実をにじませた。
デブリの全量取り出しができなければ、原発を撤去し、更地にして元通りにするという「廃炉」の大前提が揺らぐ。そうなれば国や福島県が描く復興への影響も甚大になる。
以前から関係者の間ではささやかれてきたが、デブリ取り出しの困難さが改めて認識されたのは、2月13日に2号機であった初の接触調査がきっかけだった。
調査では遠隔操作で特殊な機器を原子炉格納容器内に投入し、底にあった燃料デブリの可能性が高いとみていた堆積(たいせき)物の一部をつかんで持ち上げることに成功。「動かないかも、と気にしていた」(小野氏)ため、直後は関係者に安堵(あんど)の雰囲気もあった。
しかし、堆積物から約30センチの地点で測定した放射線量は、予想を大幅に下回る毎時7.6シーベルトだったことが判明。堆積物の含有成分に核燃料が多ければ、事故から8年間を経ても毎時数百シーベルトを計測するはずだった。
この結果が意味するのは、接触調査した堆積物は核燃料を中心とした「デブリの本命」ではない可能性が高い、ということだ。少なくとも堆積物の表面は、燃料を覆っていた被覆管などの金属が中心ではないか、との見方が大勢だ。
調べた堆積物の表面の下にデブリが潜り込んでいるのか、それとも燃料が元々あった原子炉圧力容器に残っているのか。またはそれ以外に存在するのか。今のところ、デブリの正確な分布状況を突き止める見通しは立っていない。
一方、接触調査で動かせたのは小石状の堆積物ばかりで計1キロにも満たない。炉心溶融(メルトダウン)によって発生した燃料デブリは、2号機だけで推定237トン、1~3号機の合計では推定880トンにも達する。
接触調査した2号機では今年度後半にも再度、詳細なデブリ調査をし、少量の試験採取を試みる予定だ。1号機でも、今年度は潜水ロボットを含む複数の機器を投入し、炉内調査を本格化させつつデブリ試験採取に挑む。3号機は、機器トラブルが相次ぐ使用済み燃料の取り出しを優先させる方針とみられる。
政府と東電が今年度中に決める本格的なデブリ取り出しの最初の号機は、水素爆発を免れ、現時点で最も調査が進む2号機が有力視される。2021年の取り出し開始を目指す。
しかし1、3号機はまだデブリらしきものに触ることさえできていない。国が描く廃炉完了のスケジュールは事故から40年後の51年だが、今後の具体的な道筋は見えず、ある経済産業省幹部は「デブリは取り出せるものから取り出すしかない」と話す。専門家ですら全量取り出しに懐疑的な目を向け始めた。
東京都市大の高木直行教授(原子力工学)は「やれるところまで(デブリを)取り出し、結果的に取り出しをやめるという判断もあり得る。そうなるとチェルノブイリ原発のような石棺を検討せざるを得ない」と指摘する。
まだ「序盤」「蓄積ノウハウの継承」が新たな課題に
事故から9年目の廃炉作業では、「蓄積ノウハウの継承」が新たな課題に浮上してきた。今年度に計画する2号機でのデブリ試験採取で、国は実質的な調査主体を有力視されていた東芝グループではなく、三菱重工業グループにすることを決めたためだ。
この変更には理由がある。2号機ではもともと、原子炉内を水で満たして放射線を遮蔽(しゃへい)し、デブリを取り出す工法を検討していた。東芝が提案していたが、損傷が予想以上に激しく、難しいことが判明。このため国や東電は、原子炉を水で満たさずに炉の真横から穴を開け、空気中で取り出す手法に変えた。これを提案したのが三菱重工業だった。
東芝は13年から、2号機の内部調査などを担当してきた。今年2月のデブリ接触調査で現場責任者として作業を指揮した東芝エネルギーシステムズの多田浩正さんは、自身も原子炉近くで作業した経験があり、作業員の被ばくリスクを最小限に抑える作業計画をまとめ上げ、実行した。
その結果、滞在できる時間は長くても30分という現場で、原子炉の構造を熟知した22人が4班に分かれて作業に当たり、1班当たり十数分で作業を終えることができた。これは蓄積してきたノウハウのたまものにほかならない。
多田さんは「廃炉に向けて作業員の被ばくをいかに抑えるかが課題で、今回の調査ほどうまくいったことはない」と振り返る。
そうした中での調査主体交代で、三菱重工業はデブリ取り出しの実質的な責任を初めて負う。1、3号機を含め廃炉作業では東芝エネルギーシステムズ、日立GEニュークリア・エナジー、三菱重工業が分担や連携をしながら調査を担っており、各号機で進捗(しんちょく)状況や調査方法も異なる「縦割り状態」となっている。今後も今回のような「担当企業交代」は十分、予想される。
廃炉の調査方法を検討する国際廃炉研究開発機構(IRID)の幹部は「企業間の垣根を取り除き、英知を結集しなければ廃炉を達成できない」と話す。
一方、日本のメーカーによる海外での原発建設計画が相次いで頓挫する中、東電の小早川智明社長は1月の記者会見で「(原発)メーカーを含めた統合は合理的」と発言。ある政府関係者は「原発の再稼働が進まない中、原子力産業が商売として成り立たなくなる可能性もある。統合は政府の意向だ」と指摘し、業界の再編も議論されるようになってきた。
その中で懸念されるのが、少なくとも30年以上かかる福島第1原発の廃炉への影響だ。今後も一貫した計画のもとで作業を進めることができるのか。原発メーカーのある社員は「社内でも組織再編が進み原子力の技術開発を維持できるか、懸念されている。なにより人材を育てる環境を維持できるのか疑問視する声も多い」と話す。
【毎日新聞】