関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の運転差し止め訴訟で、二〇一四年に福井地裁で差し止めを命じる判決を出した元裁判長の樋口英明さん(66)=津市=が、九日に大津市内で開かれる「原発のない社会へ2019びわこ集会」で講演する。原発が林立する福井県に隣接する滋賀県は、同原発から三十キロ圏の緊急防護措置区域(UPZ)に高島市が含まれるなどし、昨年からは国の原子力総合防災訓練に、県や高島、長浜両市などが参加している。東電福島第一原発事故を引き起こした東日本大震災から十一日で八年となるのを前に、原発の危険性や司法の責任について、改めて思いを聞いた。
-一四年の大飯原発の運転差し止め判決の根拠は
原発はとても脆弱(ぜいじゃく)で危険だ。大飯原発の耐震設計の目安となる基準地震動は、当時七〇〇ガル(ガルは揺れの強さを示す)。ただ、日本では過去に四〇〇〇ガルの地震があり、住宅メーカーは四〇〇〇ガルに耐える家を建てている。原発の設定は桁違いで、常識的にいって低すぎる。また、被告側の電力会社は「強い地震は来ません」と主張したが、根拠は疑わしいものだった。
-住民側と電力会社側が科学的な証拠を出し合う中、判断は難しくなかったか
全く迷いはなかった。また、細かい議論には入らず、論争を打ち切っていた。一般的に、学術論争に入ると双方に根拠があり、裁判官は優劣をつけられずに混乱することもある。ただ、どちらが本当に国民の安全に役立つのかを割り切って考えれば、さほど論争には苦しまない。
-地裁判決が一八年七月に名古屋高裁金沢支部で取り消された後、講演活動を始めたのは
高裁判決には、非常にがっかりした。理由を「規制委員会に従っているから安全だ」とするもので、安心できない。黙っている訳にいかないと思った。
事故では、避難した方や関連死の方もいた。「3・11」前に司法がしっかりしていれば、事故は防げたのではと思うと、誠に申し訳ない。「3・11」前にも、井戸謙一元裁判長(彦根市在住)が命じた志賀原発(石川県)の運転差し止め判決がある。これが高裁で敗れることなく確定していればと思う。
全く無謀なことだ。「巨大地震があると危ない」との声もあるが、実際は普通の地震でも危ない。だから、動かしてはいけない。
裁判官は、原発の危険性を直視してほしい。規制委が専門家で、権威ある学者が支持しているなどとは考えず、危険か安全かを自分の目で見てほしい。市民は原発の危険性を知り、ほかの人に広めてほしい。
◆9日 大津で講演
催しは、びわこ集会実行委員会が主催し、大津市本丸町の生涯学習センターなどで九日午前十時から開始。樋口さんは「原発訴訟と裁判官の責任」と題して同十時半から講演する。午後一時半からの集会では、志賀原発差し止め判決を出した井戸元裁判長(現弁護士)が、基調報告する。参加料は五百円。(作山哲平)
<ひぐち・ひであき> 三重県鈴鹿市生まれ。京都大法学部卒。1983年任官。福岡、名古屋などの地裁・家裁、大阪高裁などを経て、2014年5月に福井地裁で大飯原発運転差し止め判決、15年4月に高浜原発再稼働差し止めの仮処分決定をした。17年8月に退官。
【土平編集委員のコメント】今日紹介したのは、滋賀県全域を対象にした滋賀版の記事です。2014年の大飯原発運転差し止め訴訟の判決で、関西電力の「原発稼働が電力供給のコスト低減につながる」との主張に対し、「極めて多数の人の生存そのものに関わる権利と電気代を並べて論じること自体が許されない」と一蹴したのに共感した記憶があります。今回のインタビューでも「『3・11』前に司法がしっかりしていれば、事故は防げたのではと思うと誠に申し訳ない」と述べています。東日本大震災を、しっかりと受け止めたことを感じます。【中日新聞】